着床不全

Chakusho

複数の良好な胚を複数回胚移植しても妊娠に至らない場合に、着床に問題がある(着床不全)可能性を考えます。着床しても途中で発育が停止し流産(エコーで胎嚢が確認された後の発育停止)に至ることを繰り返している場合、不育症といいます。着床不全の中には、①全く着床していないケース(妊娠判定でhCGが1未満)と、②着床はするけれども、着床後早い時期に発育が停止しているケース(hCGは軽度上昇するが、エコーで胎嚢が認められない)の2種類が考えられます。このため、着床不全検査の中には、流産を繰り返す不育症と同様の検査が含まれています。

① 子宮形態検査

① 子宮形態検査

子宮鏡検査は子宮内腔の異常の有無の検出に必須の検査であり、超音波検査では検出できない異常が見つかる可能性があります。子宮内膜ポリープや子宮筋腫、子宮内膜の炎症、子宮奇形(双角子宮や中隔子宮)、子宮内腔癒着はいずれも着床を妨げる原因となる可能性があります。必要に応じてMRI検査を追加致します。

ファイバースコープ

子宮鏡検査に使用しているファイバースコープです。当クリニックでは、最新の機種を採用しております。

子宮内画像

子宮内画像です。高画質な画像により、微細な病変も検出可能です。

② 抗リン脂質抗体および血栓性素因

② 抗リン脂質抗体および血栓性素因

抗リン脂質抗体や血栓性素因(Ⅻ因子、プロテインS、C)が陽性の場合には、血液が固まりやすく、血栓症を起こしやすくなります。着床した部分の血管においても血栓による血液凝固異常が循環不全を引き起こし、発育停止に至る可能性があります。治療法は不育症と同様にヘパリン、アスピリンによる抗凝固療法を用いますが、着床不全が疑われる場合には、胚移植時からの治療開始としています。

③ 自己抗体

③ 自己抗体

抗核抗体は全身性の多臓器疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病を持っていると高い値となることが知られています。この膠原病は不育症との関連が知られています。抗核抗体が80倍以上の場合には膠原病に関連した自己抗体の検査を追加し、必要に応じて内科専門医に紹介致します。

④ 子宮内膜着床能検査 Endometrial receptivity array (ERA)

④ 子宮内膜着床能検査 Endometrial receptivity array (ERA)

妊娠可能な女性の各月経が始まってから19日目から21日目が、子宮が受精卵を受けいれる時期といわれています。この時期を我々は「着床ウィンドウ」と呼んでいます。
子宮へ着床する準備が整っている受精卵と、受精卵を受け入れる準備が整っている子宮内膜の両方のタイミングが合わないと、着床が上手く起こりません。子宮内膜の着床時期を確認することが、最適な移植日を決定するのに役立ちます。ERAは、アイジェノミクス社が2009年に特許を取得した胚の子宮内膜への着床能を評価する診断技術です。ERAは着床ウィンドウの時期を特定できるため、胚をいつ子宮に戻すのが最適なのかがわかります。10人の内3-4人は着床ウィンドウの時期がずれているといわれており、ずれを修正して胚移植することで、より着床しやすくできる可能性があります。ERA検査では、自然周期の場合はLHサージの7日後(LH+7)、またはHCG投与開始7日後(HCG+7)、 ホルモン周期の場合はプロゲステロン投与開始5日後(P+5)に子宮内膜を採取します。検査周期では移植は行いません。胚移植は次以降の周期で行います。

子宮内膜着床能検査
⑤ 子宮内膜スクラッチ

⑤ 子宮内膜スクラッチ

子宮内膜の表面を擦ったり削ったりして傷をつけておくと、胚移植した場合の妊娠成績が向上する可能性があることが数年前から多数報告されています。子宮内膜を傷つけるとどうして着床しやすくなるのかについては、まだまだ不明な点が多いですが、いくつかの理由が推測されています。子宮内の免疫の環境が改善されるなど子宮内膜を着床しやすくする可能性や、移植された胚自身の着床に関わる遺伝子へ働きかけて着床しやすくさせる可能性などです。スクラッチの方法としては、子宮内腔に細い検査器具を挿入して内膜を擦る方法や、子宮鏡検査時にカメラ先端で内膜を擦る方法があります。スクラッチを行う時期としては、胚移植の前周期に行って良い結果が得られたとする報告が多いので、通常胚移植周期の7-10日前頃に行います。

スクラッチグラス

2003年Barashらは、スクラッチした群では、しなかった群に比較して約2倍高い妊娠率および生児獲得率を示したと報告しています(Barash A, et al. Local injury of the endometrium doubles the incidence of successful pregnancies in patients undergoing in-vitro fertilization. Fertil Steril. 2003;79:1317–22.)。現在までにスクラッチの有効性を示唆する報告が多数なされています。