テスト胚移植の前周期に子宮内膜を生検した際に体外受精の妊娠率が上昇することが偶然見つ かり、「子宮内膜を傷つけることで、着床にプラスに働くのではないか」と考えられており、「子宮内膜スクラッチ」と呼ばれています。
2003年に Barash らが最初の報告をしており、内膜スクラッチを行った群では約 2 倍の妊娠率および挙児獲得率を示しました。その後も多数の同様の報告がなされていますが、今回は2019年12月のデンマークからの報告をご紹介したいと思います。
産婦人科領域の中でも大変権威のある雑誌に掲載されたものです。 この論文は、黄体期の内膜スクラッチが着床不全の患者において妊娠率を高められるか どうかを調べるために、多施設ランダム化比較試験 randomized controlled trial (RCT)を 行った報告です。良好胚移植で妊娠不成功が1回以上ある計 304 名(スクラッチ実施群 151 名、スクラッチ不実施群 153名)を対象としています。
スクラッチの方法は、胚移植前周期の高温期(月経 18~22 日目)に内膜生検用の器具を用いて子宮内膜を4方向1回ずっ掻爬しています。結果は、内膜スクラッチにより、1回以上の胚移植不成功群では統計学的に妊娠率の改善は認めませんでした(スクラッチ実施群 44.4% vs 不実施群 38.5%)が、3回以上胚移植して妊娠しなかった患者に限定すると、内膜スクラッチ実施群で 1.7 倍の妊娠率上昇を認めました(スクラッチ実施群 53.6% vs 不実施群 31.1%)。
この論文ではスクラッチ による妊娠への影響に関しても調査しており、妊娠中の合併症のリスクや出生後の児の異常の頻度は両群で差がないことが報告されています。 この論文から、とくに3回以上の胚移植で妊娠できていない場合には、子宮内膜スクラッチを実施してみる価値があると考えられます。
<今回ご紹介した論文> Olesen MS, et al. Therapeutic endometrial scratching and implantation after in vitro fertilization: a multicenter randomized controlled trial. Fertil Steril. 20195112:1015-1021.
※子宮内膜スクラッチ療法は、自費診療となります。総額2万円程度かかりますことをご承知おきください(患者様の状態によって費用が異なります。詳しくはお問い合わせください)。